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2018.08.16

Re:Story Of Our Life(その4)

 線路沿いに進んだ先、そこにスタジアムがあるはずだった。
 でも、いつの間にか線路は消え、鬱蒼とした森になった。
「おい、本当にこっちでいいのかよ?」
 モモスケが尋ねると、タマシーは地図を確認する。
「うん、もうすぐで着くはずだ……たぶん」
 でも、進んでも進んでも森は深くなるばかりで、スタジアムらしいものは全然見えてこない。それどころか霧みたいなものが出てきて前が見にくくなってきた。
「……なんか、匂いがする」
 アリが言う。モモスケも感じた。甘い匂いだ。つい最近、この匂いを嗅いだような気がする。たしか……思い出した。あの夢だ。
 これヤバいかも。引き返そう。そう言おうとした。そのとき、
 前方に白いものが見えた。
「あ……」
 無意識に近付いていた。人が倒れている。
 女の子のようだった。白いドレスに長い髪。肌も白くて、ほっそりとしている。
そして、ふしぎなくらい長く尖った耳。
「おい……これ、人間?」
 タマシーが言った。
「宇宙人だ」
 アリが言う。
「どうかなあ……」
 首を傾げながらモモスケは、その子に近付いた。
 ふっ、と彼女が眼を開けた。モモスケは思わずたじろぐ。
 ゆっくりと起き上がった。四人より少し背が高い。年上なのかもしれない。
「君……誰?」
 勇気をふりしぼって、モモスケは尋ねた。女の子は答えない。少し首を傾げるようにして、でも黙っている。
「言葉……わからないのかな?」
 と、タマシー。
「喋れないのかも」
 アリも言う。
 女の子は、じっとモモスケを見つめている。その視線の強さに少し気後れした。
――やっと、会えた。
 不意に声がした。モモスケは思わずあたりを見回す。耳からではなく、頭の中に直接響くような声だった。
 もしかして。モモスケは女の子に眼を向けた。
「君が……?」
――言葉にしなくていい。思うだけで伝わるから。
 また、声がした。モモスケは思わず聞き返そうとした。
「ここに置いていくわけにいかない」
 不意にそれまで黙っていたレニスが言い始めた。
「一緒に連れていこう」
 どこか変な言い方だった。いつものレニスらしくない。でもモモスケは女の子の「声」に気を取られていたので、あまり気にしなかった。
――一緒に、行く?
 頭の中で思ってみる。女の子は頷いた。
-----------------------※-----------------------
 あっと言う間に、陽が翳ってきた。
 急いで枯れ枝や落ち葉を集め、火を焚いた。持ってきた食料で夕食にする。女の子にも薦めたが、食べようとしなかった。
「今日はもう、ここで野宿するしかないな」
 モモスケが言うと、
「でも、まだ眠くないよなあ。どうする?」
 タマシーが訊いてきた。
「どうするって……」
「よし、俺、踊る」
 いきなりそう言うと、タマシーは目茶苦茶な振りで踊りはじめる。その仕種がおかしくて、モモスケもアリも笑った。
 ふと見ると、女の子はレニスを見つめている。レニスも笑わず、彼女を見ていた。
「どう――」
 声で訊こうとして、慌てて頭の中で思った。
――どうしたの? レニスに何かあるの?
――重なってる。
 女の子の声が響いた。
――重なってるって、何が?
――気付くのが少し遅かった。もう、知られてしまったみたい。
 意味がわからない。
――どういうことなんだよ? 教えてよ。
――今、分離するから。
 女の子の瞳が、赤く光った。
「うっ……!」
 レニスが突然頭を抱えてもがきだす。
「どうした? 大丈夫か?」
 モモスケが駆け寄ろうとしたが、それより早くレニスは立ち上がる。悶えながらあたりをうろつく。そして、姿が変わった。
「え?」
 一瞬にしてレニスは大きくなった。ほっそりとした体が太り気味になり、胸まで大きくなった。
「……女?」
 戸惑うモモスケや踊りをやめて唖然とするタマシー、口を開けて見ているアリの前で、さっきまでレニスだった太った女が、いきなり激しく踊りだした。
「やめ、やめろおおおっ!」
 踊りながら叫ぶ。
「今、今出ていくから! こいつから離れるから!」
 そして、突然レニスに戻った。踊りがよたよたとしたものになり、やがてしゃがみ込む。
「……何なの? 今の、何なんだ?」
 どんなときにも動じないタマシーも、さすがに茫然としている。アリは腰を抜かしているかのように地面にへたり込んでいた。
――何が起ったんだ?
 モモスケは女の子に尋ねた。
――スパイ。その子に乗り移っていた。その子自身はお化けだと思ってたみたい。
――スパイ? 何だよそれ? どこのスパイだよ?
――「administration」
――アドミニ? 何?
――「運営」のこと。この世界を管理して動かしている。そして、わたしを追っている。
――君、追われてるの? どうして?
――わたしが、新たな移民だから。彼らが望んでいない存在だから、わたし――。
 女の子が突然、後ろを向いた。
――来た。
 その言葉と同時に、眩い光が彼らを差した。
 数人の大人たちが、こちらに迫っている。
――お願い。助けて。
 女の子の声が頭に響く。迷ったり考えている時間はない。モモスケは瞬時に判断した。
「逃げろ!」
 わけもわからないまま、他の三人も駆けだした。
 森はどこまでも続いていた。方角もわからず、自分たちがどこを走っているのかもわからない。
「あいつら、何なんだ?」
 走りながらタマシーが訊く。
「わかんないよ!」
 モモスケは叫ぶ。
「でも、とにかく逃げるんだ!」
 そして、女の子に尋ねた。
――教えて。君は誰?
――わたしは、プロキシマ・ケンタウリの第四惑星から来た。あなたたちと同じ星系の住民。
――せいけい? 何?
――あなたたちは、わたしたちより先に、この惑星にやってきた。かつてこの星の住民が「地球」と呼んでいた惑星に。
――言ってる意味がわからないよ。ここは昔から地球だし、僕は地球人だ。
――そう思わされているだけ。あなたもわたしも、本当は実体を持たない精神だけの存在。プロキシマ・ケンタウリの巨大フレアから逃れて、ここに辿り着いた。そしてかつて存在していた地球人の記憶の中に住み着いた。
――記憶の、中……。
――地球人が滅亡した後も、この惑星は彼らの記憶を宿していた。今こうして目の前に見える森も、すべて記憶の中のもの。あなたたちは先に記憶に住み着き、世界を再構築した。そして後から来るはずだったわたしたちを締め出そうとした。
――どうして?
――自分たちだけの都合のいい世界を作りたかったから。「運営」はそのために作られた組織。後からやってきた者を抹殺する。
――抹殺……殺すの?
――殺されたくない。わたしも、わたしの仲間たちも。だから、あなたの力が必要なの、モモスケ。
――僕の? どういうこと?
――あなたとタマシー、アリ、レニスは、この記憶世界のキーになっている。あなたたちが門(ゲート)を開ける力を持っている。
――門って?
――この世界が持つ記憶の中でも最高に最強で最上の最大で最愛の未来をもたらすもの。
 走りながら、女の子はモモスケに言った。
――それが、ももクロ。
 突然、森が消えた。
「あれ?」
 タマシーが立ち止まる。
「ここ、どこだ?」
 町の中だった。舗装された道路を連なる街灯が明るく照らしている。
――この先。走って。
 女の子が言った。
「止まるな! 走れ!」
 モモスケが号令する。
 そして、それが現れた。
「わあ……」
 アリが声をあげた。
「すごい」
 レニスも呟く。
「これって、もしかして……?」
 タマシーがモモスケに訊いた。
「……そうだ」
 モモスケは頷いた。
「これがスタジアムだ」
 巨大な円形の建物が、光の中に浮かび上がっていた。
「うわっ、俺たち、ほんとにスタジアムに着いたんだ! すっげえ!」
 はしゃぐタマシーに、モモスケは言った。
「行くぞ。あそこにいるんだ」
 五人は一気に駆ける。
「でも、どこから入ればいいんだ?」
 尋ねるアリに、モモスケは言った。
「こっちだ!」
 頭で考えたのではない。本能的な直感だった。
 通用口と書かれた入り口から飛び込む。誰かが呼び止めようとしたが、無視した。一気に駆け上がる。
 そして、そこに立った。
 今まで見たことがないほど広い空間に、人がいっぱい集まっていた。そして無数の光が揺れるスタンドの奥、まばゆい光の中に立つ、四人。
「あれが……ももクロ?」
――そう。この世界の希望。そして入り口。わたしたちもこれで、救われる。
 ももクロが歌って、踊っている。赤、黄色、桃色、紫。その姿をモモスケは陶然と見つめた。その声が響くと胸が高鳴り、踊りから眼が離せなくなる。自分の体も揺れだし、音楽に合せて踊りだしてしまう。
「すげえ……」
 アリが呟く。
「やっぱりみんな、ケアリ先生より美人だ」
「ここにいるの、みんな観客?」
 レニスが尋ねた。
「みたいだな。すごい数だ」
 タマシーが答える。
――これがみんな、わたしの仲間たち。惑星モノノフの住民。
 女の子の言葉が、モモスケの頭にこだまする。
 モノノフ……。
 夜空に一際大きな光が広がった。
 花火だ。
 ももクロの歌が、モノノフの歓声が、一緒に咲いた。
-----------------------※-----------------------
 噎せるような甘い香りが、体を包んだ。
 そして、頬に何かが滴り落ちる感覚。
 モモスケはゆっくりと目を覚ました。
 ぼんやりとした視界が、次第にはっきりしてくる。
 白いドレスを着た女の子が、いた。
「モーカ……」
「起こしちゃった? ごめん」
 女の子が持っている花束から滴り落ちた滴が、また頬に落ちる。慌てて起き上がった。
「もうすぐタマシーたちが来るわよ」
 女の子は持っていた花を花瓶に活ける。
「今日はまた森に行くの?」
「うん、スタジアム探し」
「飽きないわねえ。本当にそんなものがあるって思ってるの?」
「だってほら、みんな知ってるじゃない。どこかにスタジアムがあって、そこに……えっと、誰がいたんだっけ?」
 首をひねるモモスケを、女の子は微笑みながら見つめた。
 その視線が窓際に移る。フォトスタンドが置いてあった。
 そこに五人の姿がある。モモスケとタマシーとアリとレニスと、そして……。
                                   【終わり】

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