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2018.12.26

Bittersweet Wanderers

「この車にしたのは、四人乗りだから」
 ハンドルを握るシオリが言う。
「ちょうどいいでしょ、わたしたちに」
「だよね」
 後部席のレニが返す。
「わたしたちにぴったり」
「お菓子も食べ放題だし」
 と、アヤカが言った。
「それ関係ないじゃん。ちょっとあんた食べすぎ」
「レニだってさっきから食べてるでしょ」
「だって食べないとアヤカが全部食べちゃうもん」
 学生時代から変わらないやりとりを聞きながら、シオリは助手席に眼をやる。カナコは会話に入らず窓の外を見ていた。
「疲れてる?」
「……」
「ねえ、カナコ」
「……え? なに?」
「さっきからぼんやりしてる。仕事、大変?」
「そんなことないけど……」
 カナコは何かを振り切るように首を振って、
「ごめん。雑念が多くてさ、最近」
「雑念?」
「いろいろと」
「ふーん」
 それ以上は追求せずに、シオリは運転に専念した。免許を取って以来、こんなに長い距離を走るのは初めてだ。少し不安。いざとなればアヤカに代わってもらえばいいけど、できれば今日はひとりで運転したい。ちゃんとできるところをカナコに見てもらいたい。
 途中で休憩を挟みながら、なんとか目的地の軽井沢に着いた。
 まずは旧軽井沢銀座通りでをぶらぶらしながら食べ歩き。それから白糸の滝を見たり、お洒落な店でチーズフォンデュのランチ。それからまた移動して林の中へ。
「あー、空気が美味しい!」
 歩きながらアヤカが大きく伸びをする。
「林の中って、いい匂いするよね」
「それ、あれだよ。ほら、ほら」
 レニがもどかしそうに言葉を探す。
「ほら、あの……ふ? ふぁ? ふぇ?」
「フィトンチッド」
 カナコが言った。
「樹木が微生物の活動を抑制するために発散する化学物質」
「さっすがカナコ。頭いいねえ」
「成績トップは伊達じゃないよねえ。何でも知ってるもん」
 レニとアヤカが囃す。
「そんなんじゃないよ。ちょうどうちの会社がフィトンチッドを利用した新製品を開発中でさ、その仕事を任されてるから知ってるだけ」
「その仕事ってもしかして、さっきランチのときにかかってきた電話も?」
 シオリが尋ねると、
「ま、ね。でも大丈夫。さっきの電話で今日は最後だから。もう仕事はしない」
「さっきまで仕事してたんかい」
 レニが突っ込むと、カナコは苦笑した。
「ごめんね。でもほんと、もう仕事の話はなし」
 そう言って足早に歩きだす。その後ろ姿をシオリは見つめていた。
 いつもそうだ。カナコは自分で全部抱え込んで、誰にも頼らずに片付けて。たまには、頼ってくれてもいいのに。
「なんだかなあ……」
 レニが呟く。
「カナコって、前からああだったっけ?」
「ああって?」
 アヤカが訊き返す。
「あんなに頭が良くて大人しくて無口だったっけ?」
「え? ずっとそうじゃん。カナコは同級生の中でいつもトップだったし、いつも本を読んでたし」
「そうだけど、そうだけどさ……」
「何が言いたいの?」
 シオリが尋ねると、レニは頭を掻きながら、
「なんかさ、ときどきフッと思い出すんだよね。馬鹿笑いして飛び回ってるカナコ」
「馬鹿笑い? カナコが? まさか」
「思い出すっていうか、二重写しみたいになるの。めちゃくちゃ騒がしくて元気で、そんなカナコの姿が」
 ああ、そうか。レニも気付いていたのか。
「……なんか、言われてみるとさあ。わたしもときどき思うんだよね」
 アヤカが呟くように、
「わたしたち、何かしてたような気がする」
「何かって?」
「よくわからない。でも、一緒に何かしてたような……」
「……ダンス」
 シオリは呟く。
「わたしたち、ダンスしてた」
「ダンス? 何それ?」
「して……なかったか」
「してないしてない。わたし、学校で無理矢理やらされて以来、ダンスなんてしたことないもん」
 レニが大袈裟に否定する。
「わたしたちさ、四人とも運動音痴だったでしょ。体を動かすなんて論外だったし」
「そうだよね。本を読んだり映画を観たりするのが楽しい高校生活だったじゃん」
 アヤカも同意する。
「シオリ、ダンスしてた?」
「してない。してないけど……でも……」
 ドゥユドゥユドゥユドゥユワーナダンス……
「レニと同じ。ときどき、思い出すの。リズムに合せて四人で踊って……それから……事故?」
「え?」
「死んだ?」
「ちょっとちょっとシオリ、何言ってんのよ」
「うん、変だよね。何言ってるんだろ、わたし」
「それってもしかして、前世の記憶だったりして」
 レニが茶化すように言う。
「前世? そんなの信じるの?」
 アヤカが眼を丸くする。
「信じてるよ、わたし。人間って生まれ変わっていくんだもん」
「レニがオカルト趣味とは知らなかった」
「オカルトじゃないもん。これは純粋に魂の話でさあ」
「魂? ああそういえばレニ、昔は幽体離脱が特技だとか言ってたもんね」
「それは……もう言わないでってば」
 いつの間にか学生時代の痴話喧嘩みたいになっているレニとアヤカを置いて、シオリは先を行くカナコに駆け寄った。
「……ねえカナコ、わたしたち、ダンスとか……」
 訊きかけたとき、カナコが立ち止まった。
「……思い出した?」
「え?」
「それは、大事なことだよ」
 振り返ったカナコは、一瞬だけ弾けるような笑顔を見せた。
「わたしたち、やっと会えたんだから」

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コメント

天才素晴らしい!

投稿: | 2018.12.27 17:32

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