「悪魔の唄」を観る
阿佐ヶ谷スパイダースの芝居「悪魔の唄」を観る。(於・名古屋市民会館中ホール)
自分の浮気が原因で心を病んでしまった妻の療養のために山奥の家に引っ越してきた男。その家にはなぜか若い女とその夫が入り込んでいた。女は自分の愛人に電話をかけたがっている妻を巧みに操り、地面のある場所を掘らせる。するとそこから太平洋戦争の際に機銃掃射で死んだ日本軍兵士のゾンビが現れて……というストーリー。
ホラーという前宣伝で、舞台には生きている人間よりゾンビや幽霊たちのほうが多く登場する。だけど、ホラー味は薄め。ゾンビのメイクもそれほどグロくないし、銃声の大きさと血糊が多少ショッキングな程度かな。
メインは生きている者死んでいる者それぞれが抱えている葛藤と妄執でしょうか。信じていた夫に裏切られた妻は実際には存在しない愛人を妄想の中で生み出して愛欲に溺れ、戦いの中で皇国の礎として死ぬことができなかった兵士たち(野グソているときに米軍機に殺されてしまった)は「名誉の戦死」として死に直すためにアメリカを爆撃しようとし、戦地に赴いた婚約者を待つ女は親の意向で無理矢理結婚させられた夫の妄念に囚われの身となりながらも必死に再会を望みつづける。いくつもの思いがシリアスに、そしてときにはコミカルに絡み合いながら、結末へと向かいます。
阿佐ヶ谷スパイダースの芝居は今回初めて観たのですが、なかなか面白かったです。癖があるように見えて、実はストレートな直球勝負って感じ。
ただ、場面場面での辻褄合せに少々強引すぎるものを感じました。特に幽霊とゾンビの作品世界上での設定に曖昧なところがあって、そこが気になると物語の結構に胡散臭さを感じてしまう。これは惜しかったなあ。
でも最近ファンになった山内圭哉さんの演技は、やっぱりよかったです。
舞台では直接言及はなかったけど、タイトルの「悪魔の唄」って、アレのことだよね。だとしたらかなり大胆なタイトルだな。舞台上でゾンビ兵士や狂った妻が大合唱する「唄」を聴いたとき、あのときが今回の舞台で一番恐怖を覚えたシーンでした。
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