ショートショートの炊き出し『友達のこと』その12
『うそつき――ナナミのこと』
みんなは「うそつきナナミちゃん」って言う。
いつもうそをつくから。
この前だって、
「きのうね、わたし、金魚と話したんだよ」
って言った。
「金魚がね、洗面器の中でね、もっときれいな水がほしいよおって。だからきれいなお水をあげたの」
「金魚が話すわけないじゃん」
タクミくんが笑った。
「おまえ、またうそついてるのかよ」
「うそじゃないもん。ほんとだもん」
ナナミちゃんはおこって言う。
「うそに決まってるだろ。な?」
タクミくんはわたしに聞いてきた。わたしはこまってしまっつて、
「うーん、どうかなあ……」
としか言えなかった。
そしたらナナミちゃんが、とっても悲しそうな顔をした。わたし、わるいことしちゃったかな。でも、金魚が話すなんて、信じられないもの。
今日もナナミちゃんといっしょに帰ったとき、急に止まって、土手のほうをじって見てた。
「どうしたの?」
って聞いたら、
「あの花、泣いてる」
そう言ってタンポポの花を指差した。
「お日さまが照らなくて暗くて寒いって、泣いてるの」
ナナミちゃんは土手をのぼって、タンポポのまわりを手でほり返そうとした。
「お日さまのいるところに動かしてあげなききゃ」
でも土がかたいし、タンポポの根っこは長いし、ぜんぜんできなかった。
「うー」
ナナミちゃんは悲しそうな顔をした。わたしは言った。
「だいじょうぶだよ。お日さまが動いて、そっちのほうも照らしてくれるから」
「ほんと? こっちも明るくなる?」
「なるんじゃ……ないかなあ」
あんまり自信がなかった。
「ほんとかどうか、見てみる」
ナナミちゃんはそう言って、タンポポのそばにしゃがみこんだ。わたしはナナミちゃんのことを放っておけなくて、いっしょに並んでしゃがんだ。
どれくらいそうしてたかな。足がじんじん痛くなって、もうやめようよと言いたかったけど、ナナミちゃんはじっとだまってタンポポを見てた。
「何してるんだね?」
知らないおじさんが聞いた。
「この花、お日さまが当たらないの」
ナナミちゃんが言うと、
「ああ、こっち側は朝のうちでないと日が差さないからね」
と言った。
「朝にはお日さまが当たるの?」
「そうだよ。だから草も花もいっぱい生えてるだろ」
「そうかあ、ちゃんとお日さま当たるんだ」
ナナミちゃんはうれしそうに立ちあがった。でもすぐにまたしゃがむ。
「どうしたの?」
「足……しびれたみたい」
わたしも足がしびれてた。
「でも、すごいね、お日さまも、タンポポさんも」
「そうだね」
わたしたちはしびれた足をさすりながら笑った。
家に帰ってお母さんにナナミちゃんのことを話したら、
「ナナミちゃんは嘘つきじゃないわ」
と言った。
「ただ、感受性が豊かなのね」
「カンジュセイってなに?」
「うーん……いろいろなことを感じ取る力のことよ。つまり……」
お母さんはこまったような顔をして考えてから、言った。
「……つまり、優しいってこと」
次の日、学校でまたナナミちゃんがうそつきって言われた。
「ほんとだもん。風には青いのと黄色いのと赤いのがあるんだもん」
「風に色があるわけ、ないじゃん」
タクミくんがばかにした。
「あるもん。寒い風は青くて、暖かい風は黄色くて、強い風は赤いんだもん」
「うそつき! うそつき!」
わたしはがまんできなくなって、タクミくんに言った。
「ナナミちゃんはうそつきじゃないよ。カンジュセイがユタカなだけだよ!」
タクミくんはびっくりしたような顔でわたしを見た。
「なんだよ、カンジュセイって?」
「やさしいってこと!」
わたしがあんまり大きな声で言ったものだから、タクミくんはそれ以上何も言わなかった。
あとでナナミちゃんが
「ありがとう」
って言った。わたしはちょっとこまってしまった。
だってわたしには風の色なんか見えなかったから。
でもナナミちゃんには見えてるんだ。カンジュセイがユタカだから。
ナナミちゃんが、ちょっとうらやましかった。
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